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県産材を使うということ。


石川県は森林面積が全体の69%を占める、資源豊かな森林県。樹木は家や街づくりの材料になるだけでなく、
水や空気を浄化し、さまざまな災害から私たちを守っています。ですが木は手入れをしなければ、健康で丈夫には育ちません。
県産材を活用することは木や里山を育て、街や暮らし、産業を整備して、また山に恵みを返す良い循環を生みだします。

『人の視点、木の視点。』

石川県森林組合連合会会長・金沢森林組合組合長・石川県木材利用推進協議会会長 門村和永氏

「環境保全」という言葉がない半世紀以上前から、森林整備に向き合ってきた門村氏。燃料革命、高度経済成長、バブル崩壊、環境保全、人口減少といった時の流れの中、森林の大切さについてタイムレスな思いを語って頂いた。

門村和永氏

現在の森林を作った活動。

私が森林組合に入社した昭和40年、世の中では、燃料がそれまでの松・杉から石油・石炭へと移行する燃料革命が起こり、木材を生産していた中山間地に住む人々の収入源がなくなってきた頃でした。金沢市が大々的に植林事業(中山間地に住む人々が自分の山を提供し、森林組合で働いて賃金を得る取り組み)を始めると聞き、私が生まれた中山間地の発展につながる仕事をしたいと思って入社したんです。
その頃、国全体としても住宅建材用の木材生産を見据え、杉などの針葉樹を植林する動きが進められていました。当初、金沢森林組合はたった3人の組織でしたが、それから仕事量・職員数がどんどん増えていきました。現場で働く人も急激に増え、昭和45〜55年頃には500人規模となり、年間150ヘクタールの植林を行うようになっていました。植林した杉が建材として使える様に育つには約50年はかかりますが、将来を見据えた活動ですね。そしてこの活動が今の山の姿を作ってきました。

木の成長。そして新たな課題。

植林し始めた時分は日本に建材となる木がなくて、外国産材を輸入して使っていました。林業の仕事は、長らく「植える」「育てる」が中心でしたが、最近は建築用材として使える木が増えてきました。林業の仕事も「伐採する」「使う」に変わってきています。
しかし新たな課題が出てきています。木材価格が下落し、県内・国内の木材を伐っても収支のバランスが取れなくなってきている。なので、資源としての木はあるのに、伐りづらい状況となっています。産業として成り立ちにくい状態となっているのです。
約50年前に植林した木を、これからは伐って使わなくてはいけない。そして伐ったところに新たな苗木を植えていかなければいけない。森林の特性上、地球環境の観点・災害防止の観点からも「循環」させていかなければならないが、木材価格の下落によって循環させていくための費用を確保しづらいのが現状です。産業としても生態系としても、森林を循環させるサイクルを作ることは、待ったなしの課題となっています。

環境問題と森林整備。

数年前に起きた九州の大雨でも、流された木材が水を堰き止めてしまい、洪水を起こしたと言われていますが本来、木は悪者ではありません。木を手入れしないと下草が育たず、雨が地面に浸透しなくなり山肌を流れる様になる。すると災害が起きやすくなるのです。木を手入れすれば、雨が地面に浸透し、徐々に川に流れていく事で洪水も起きにくくなる。私たちは木の手入れを進めていくためにも、木を使ってもらえる様にすることが必要です。

街に木を増やす。

2015年前後から県産材・国産材を活用していこうと言われる様になってきました。私たちとしては、公共建築物に県産材を利用してもらえる様に働きかけています。石川県内では金沢城公園の菱櫓・五十間長屋・橋爪門続櫓や国立工芸館の木道、金沢市では第二市庁舎に県産材を使っていただきました。県内の保育園・小学校・中学校では教室の一部を木質化する取組みも進んでいます。
ちなみにですが、木材・建築材料の開発が進み、マンションなどが木造で建てられる様になってきています。一般的に、火事の跡には木の柱は残ることが多いですよね。元々、木はそれだけ強いんです。また石川県や金沢市、県内の市町は、県産材を使った住宅に対して助成するなど、機能面からも経済面からも木材は利用しやすい材料になってきました。

木を活かす感性。

木の大切さを伝えていく活動(木育)として、石川県森林組合連合会や県木材利用推進協議会では県内の保育施設への出前講座を行っています。金沢市林業振興協議会も年間約20校の小学校に、林業の現場に生徒を引率して現地を見せています。小さい時から木の大切さを体験を通して学んでいくことは、人が成長していく上で大切なことです。
また、木に触れる・木を利用してもらう・木を活かすには、女性の感性が必要だと考えています。私たちはどうしても産業的(材料的)に木を捉えてしまいますが、生活の一部として考えるには女性の視点が重要だと思っています。実際に「森林を楽しむ」「美味しい林業」という観点から、林業女子会が竹林整備や原木しいたけ収穫のお手伝いを行っていたり、全国の方々とも繋がって活動しています。さらに、最近では女性が多くの職場や職種で活躍しています。大手化粧品メーカーでも容器に木材を使う様にもなってきた。これも女性ならではの視点だと思います。小さなものでも木材を使わないと、住宅でも木材は使われないですよね。まずは「身近なところから」が大事です。
木を生産するにも「感性」は重要です。能登森林組合では新卒女性の方が入社され、金沢森林組合でもこの3年で4名新卒者が入社しています。「女性の感性」「若い方の感性」が職場全体が明るくします。このような人材に集まってもらうためにも、林業の魅力を広めていきたいと考えています。

時間がかかるという「魅力」

木の成長には時間がかかる。だから、時間をかけたもん勝ちなんです。これが林業の魅力だと思っています。個人的な話ですが、これまで細々と銀杏の木や桐の木を植えたり、中山間地の休耕田を利用してドジョウを育てたりと色々取り組みをしてきました。最近になって、定年された方々へのやりがいの創出になるということで、地域で喜ばれるようになってきました。何をするにも時間をかけたもの勝ち。それが林業の面白さだと思うんです。

歴史に学ぶ。

江戸から明治にかけて、静岡の天竜川上流に木を植栽し、治水に多大な貢献をされた金原明善(きんぱらめいぜん、1832年〜1923年)は、国の根源は森林の管理だと言われています。この話は現在にも当てはまると思う。歌川広重の東海道五十三次の絵を見ると、背景に描かれた木は少ないんですよ。これは描写として木を少なく描いたのではなく、実際に当時は木を伐り過ぎて少なかった様です。それだけ昔から森林の保全、植栽は大事な問題だったんですね。今はその反対で間伐などの森林整備が行き届いておらず、木が多くなり過ぎています。
私たち現代人は、価格面で県産材・国産材を使うかどうかを考えてしまいます。しかし森林は環境的な側面や、国土の7割を森林が占めるという点からも、国の根幹に関わる問題として考える必要があります。単に価格の高い安いではなく、「私たちの生活への影響」という観点を広めていきたいです。

木を届ける立場として

山が賑やかになってほしい、私はそう思っています。近年、山で働く人たちが減ってきて、中山間地が疲弊してきている。さらに山が静かになってきたので熊や猪が里山にまで出てくる様になってきました。山が元気にならないと、集落に住む人がだんだんと減ってしまいます。そしてこれらの問題に対し、私たちが真剣に向き合わないといけないと思っています。

インタビュアー:髙桑由樹((株)サクセスブレイン)
写真:岡崎早貴江(石川県森林組合連合会)
撮影協力:石川県、金沢市

石川県木材利用推進協議会について


石川県木材利用推進協議会は、森林の役割と木材の良さを広く知ってもらい、木材の需要拡大を目的に活動しています。
当サイトは、その活動の一つとして木材の魅力を配信しています。
日本は、先進国の中では有数の森林大国です。
その森林の中核は終戦後に植えられた人工林で、すでに伐期を迎えるまでに成長しています。
石川県内の人工林においても、その多くは利用可能な状態に達しています。
木材を利活用することにより、森林の持つ公益的機能がより発揮され、バランスの取れた循環型社会が構築されるとともに、森林・林業・木材産業の活性化が図られます。
また、住宅分野では消費者の安全や安心に関する関心の高まりから、県産材へのニーズが高まっています。
このことから、協議会では、木材を生産する森林組合から住宅を建築する業界団体までがメンバーとなり、県産材の住宅分野での流通拡大に向けて協議を行っています。

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