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県産材を使うということ。


石川県は森林面積が全体の69%を占める、資源豊かな森林県。樹木は家や街づくりの材料になるだけでなく、
水や空気を浄化し、さまざまな災害から私たちを守っています。ですが木は手入れをしなければ、健康で丈夫には育ちません。
県産材を活用することは木や里山を育て、街や暮らし、産業を整備して、また山に恵みを返す良い循環を生みだします。

『能登から世界へ』

株式会社谷口 代表取締役社長 谷口正晴氏

「木を使いたい!」と大手企業が門を叩く木工屋が石川県にある。株式会社谷口が手がける木製品は、若者が集まる大手セレクトショップや、海外ではニューヨーク、パリ、シンガポールに並んでいる。どんな企業なのか、代表取締役社長・谷口正晴氏に伺った。

株式会社谷口 代表取締役社長 谷口正晴氏

変な木工屋である

私たちの会社は、少し変わった仕事をしていると思われる様になってきています。製品化に向けていくつかの大学の研究室とやりとりをしていたり、国内の自動車メーカー・素材メーカーの開発部門の方とお話させていただいています。その他には、私たちの商品が大手セレクトショップで販売されていたり、著名なファッションデザイナーが我々の木を使ってコレクションを発表されたりもしています。先日は、ニューヨークのファッションデザイナーから T シャツの材料として木を使いたいと問い合わせしてくださいました。
使われている製品をみると、いわゆる木工とは少し違う方向に進んでいると思います。

時代の変化を追いかけて

我が社は 1947 年に穴水町の木工所としてスタートした会社です。他の木工屋との違いといえば、同業者が同じ町にいなかったので、丸太の買い付け、製材、製品を作るという全ての工程を全部自分たちでやってきています。しかし時代が変化し、それまでの工芸品だけを作っていては、会社が成り立たなくなってきました。木じゃなくても良いじゃないかという考え方が広まり、消費者が“木離れ”してきたんだと思います。木が売れない時代になってしまったんですね。
木は、すごく良い素材です。ただ、今は目に見えたり触れられるところに使われることが減ってきている。それがものすごく寂しい話ですね。木の良さが伝わっていく世の中にしたいと思っています。
そこで私共では世界で初めて 0.1mm とか 0.08mm の厚さで木をスライスして、ミシンで縫える木(木のシート)を開発してきました。十数年かけてようやくできた商品が全国展開する雑貨店で置いてもらえる様になりました。そしてギフトショーとかビッグサイトの展示会に出ていると、全国のテレビ・新聞でも取り上げてもらえる様になり、会社に「製品に木を使えないか?」と企業の開発部門の方々が来られるようになったんです。「木のことなら谷口に言えば良いんじゃないか」と考えてもらえる様になってきたと感じています。

異業種とのタイアップ

そんな企業の方は、私共が想像もしなかったところに木を使いたいと言うアイデアを持ってこられます。周囲に木をあしらった炊飯器とか、製品化は何年かかるかは分かりませんが自動車のフロント部分に木を使おうという話もあります。海外の自動車メーカーで一部製品化されているところもありますが、日本では不燃処理が必要なので“燃えない木”ができないかと考えたりしています。
工業製品では 0.1mm の精度は当たり前ですが、木工の世界では木の収縮によって 0.5mm くらいはすぐに動いてしまう。だから「出来ないことを、どうやったらできるか」を考えることが私共の仕事。よく、自社の木のシートについて「どうやって開発したんですか?」と聞かれます。「諦めずにやり続けること」が大切なのではないでしょうか。私たちもここまで来るのに十数年掛かりました。

“カッコいい”伝統工芸

私たちのところは、基本的には 99%日本の木しか使いません。メイドインジャパンにこだわり、良い商品を出していきたい。他にもメイドインジャパンにこだわった木工屋はありますが、“商品づくりの視点”が大切だと思います。
例えば食卓テーブルを考えてみると、昔は厚さ 10cm くらいの立派な一枚板のテーブルを買うことが夢でした。けど今は違います。一枚板だけど奥さんと二人で持って片付けられる厚さ 5cm のテーブルが欲しいんです。けど、作る側の視点は違うんですね。そのテーブルを現場に作ってもらうと8cm で仕上がってきます。理由を聞くと「こんなに良い板を5センチにまで削るなんてもったいないので、こうしました」と職人は言うんですね。お客様のご要望ではなく、職人の視点を大切にしていたりします。
5cm でも8cm でも「削る技術」は変わりません。技術は変わってはいけないものです。けど、変えなくてはいけないのは、今のお客様が欲しがる、今のデザインで作るという「視点」。若者が「カッコいい」と言うものを「伝統工芸の技術」で作ることで「売れる商品」ができると思っています。
「出来ない理由」を考えることは簡単ですが、「どうやったら出来るか」を考えてやるのが一番大事なところです。それをやっていかないと仕事が減り、事業が上手くいかなくなるので、作れる人がどんどん減っていきます。勿体無い話です。

消費者の声を捕らえる

木の中には甘い匂いがするものもあります。木のエキスで和菓子が作れないかと考えたりもしています。その他にも曲げられる輪島塗を作ろうと研究したりもしますが、どんなものを作るかは、やはりお客様の声がヒントになってます。
木を使ってもらうためには、木を育てる人も木を使って物作りをする人も、お互いのことを知る必要があると思います。これから間違いなく世の中は SDGs(持続可能な開発目標: 国連によって定められた国際社会共通の目標)の流れが加速していきます。消費者を意識し
た生産活動ができれば、木を使ってくれる人を増やすことができるはず。供給側と需要側がつながる必要があるのではないでしょうか。それはまさに SDGs の動きですよね。
丸太を伐るだけ、物を作るだけではなくお互いの現場や消費者ニーズを知ることで六次産業へと動き方を変えていけば、木を使ってもらえる様になるのではないでしょうか。丸太から製品作り、販売までの全部を知る人間を育てなくてはいけない時代だと思っています。

木の良さが伝わる世の中へ

美術大学の学生に、木を使ってどんなものを作れるかアイディアを出してもらって、それを形にするという体験型授業を行ったこともあります。他にも木のものづくりに興味のある学生を私たちの工場で受け入れて、木の加工を学んでもらう取り組みを検討していたりもします。そういう人たちを育てていくことで、木の良さが伝わっていく世の中になると思っています。
また、木で遊んでくれる子供たちを増やすことも大切なことです。私共では杉の折り紙(折り木)を作って、百貨店の売り場に来られたお子さんに配ったりしています。直ぐに利益に結びつくことではありません。「木を好きな人を育てる」。そこが我々のやらないといけないことだと思います。

インタビュアー:髙桑由樹((株)サクセスブレイン)
写真:岡崎早貴江(石川県森林組合連合会)

石川県木材利用推進協議会について


石川県木材利用推進協議会は、森林の役割と木材の良さを広く知ってもらい、木材の需要拡大を目的に活動しています。
当サイトは、その活動の一つとして木材の魅力を配信しています。
日本は、先進国の中では有数の森林大国です。
その森林の中核は終戦後に植えられた人工林で、すでに伐期を迎えるまでに成長しています。
石川県内の人工林においても、その多くは利用可能な状態に達しています。
木材を利活用することにより、森林の持つ公益的機能がより発揮され、バランスの取れた循環型社会が構築されるとともに、森林・林業・木材産業の活性化が図られます。
また、住宅分野では消費者の安全や安心に関する関心の高まりから、県産材へのニーズが高まっています。
このことから、協議会では、木材を生産する森林組合から住宅を建築する業界団体までがメンバーとなり、県産材の住宅分野での流通拡大に向けて協議を行っています。

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