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県産材を使うということ。


石川県は森林面積が全体の69%を占める、資源豊かな森林県。樹木は家や街づくりの材料になるだけでなく、
水や空気を浄化し、さまざまな災害から私たちを守っています。ですが木は手入れをしなければ、健康で丈夫には育ちません。
県産材を活用することは木や里山を育て、街や暮らし、産業を整備して、また山に恵みを返す良い循環を生みだします。

『能登地震を越えていく』

能登森林組合 代表理事組合長 亀井 順一郎

能登半島地震  発災してから3ヶ月のいま、復興に向けての思いを伺いました

 

 

≪令和6年能登半島地震後の今≫

 私たち能登森林組合は、能登半島の先端に位置する奥能登地域(輪島市・珠洲市・能登町・穴水町の2市2町)を地区としています。                                                       今回の地震(令和6年元旦に発生した令和6年度能登半島地震)では、震源地に最も近く、大規模な山腹崩壊や地盤の隆起・亀裂・陥没などによる道路の寸断に加え、多くの建物が倒壊しました。                          

(震災から3ヶ月たった時点で)周囲の光景は発災時とあまり変わっていませんが、日毎に道路状況が改善され、移動が少しずつ楽になってきています。

 職員は2/3以上が職場に復帰していますが、遠方へ避難しているなかには、自宅が全壊で戻っても住む場所が無い、親の面倒を見ているが能登に戻っても以前のような介護サービスが無い、近年の度重なる地震で心が折れたなど、それぞれ状況は違いますが、今後何名が復帰できるか本当に心配しています。

 みんなそれぞれ状況が違う中、発災後すぐに道路啓開などに携わってくれた職員が何人もいます。自宅は住むことができなくて避難所と現場の往復、断水で風呂に入れず洗濯もできない、こんな大変な状況の中で頑張ってくれている事に本当に頭が下がります。

 

≪復興への課題≫

 今後、仮設住宅や住宅の改修、新築などの住宅復興の仕事が増えてくると、木材はどうしても必要になりますよね。なんとか頑張って地元の木材を伐り出したいと思っていますが、林道・作業道が崩落や亀裂で通れず、現場への移動や伐った丸太を山から搬出することができないなど、克服すべき課題が多いのも事実です。一日も早い復旧が必要です。

 今回の未曾有の大災害、この状況を受けて県や組合系統の皆さま方から「地区を出て、中能登や金沢周辺の仕事をやってみないか?」というご提案をいただきました。皆さん本当に優しいですよ。本当にありがたいです。組合系統のありがたさを痛感しました。

 だけど、そうしたご提案に対して、今は少し慎重に考えています。と言うのは、一つは、今回の地震で多くの人が家を無くし、多くの惨劇を目の前にしています。そして大勢が避難所へ身を寄せている現実があります。こんな体験をすると、生活環境が激変した中で、余震や少しの揺れにも神経質に反応したり眠れなくなったり、家族やこれからの生活に対する不安など、重圧で押しつぶされそうになっているのではないかと心配しています。まずはメンタルを整えるため、安心できて落ち着ける場所と時間が必要ではないかと思っていますので、すぐには遠方へ出ていくことは難しいと思っています。

 もう一つは、やはり経営の立て直しを考えたら、地区の外で仕事をさせてもらうことも必要なのはわかっているのですが、まずやるべきことは地元で出来ることから始めることだと思っています。県の林道調査に協力する事や崩壊現場や道路の啓開作業、組合員の伐採要請等に応えていく事など。自分の地区の中で、今後のためにできることをやる方が先じゃないかと思っています。次のステップのため、少しずつですが頑張っていかないとね。

  

≪私たちの現在地≫

 13年前の東日本大震災では、すべてが津波に飲み込まれました。ゼロどころかマイナスからの復興で、困難を極めたことだったと、そして本当に大変だったと思います。

我々はどうかというと、津波で流された車や家屋の下になったチェンソーもありましたが、職員が無事だったことと事務所や残った車やパソコンに資料もある。地元の人々もいる。ゼロじゃなく50%位からのスタートだと思っています。恵まれていると思っています。

 最近感じたことですが、職員の会話の中に笑いが多いということです。こんなことがあったのに、時間がたったからかもしれませんが、自分の体験をネタにしたりしてね。悲壮感ばかりってわけじゃなくて良かった。と思っていました。           だけど、「家帰って、酒あおっていますよ」とか「泣いています」「酒の量増えました」って話す者、やっぱり大勢います。人前では笑っているけど、みんな不安で押しつぶされそうになるのを我慢している感じがします。心の中は見えませんが、みんな能登人らしく我慢強く不安をため込んでいるようで、メンタル面のサポートが必要かな、と思っています。

 

≪森林組合としての本来の姿≫    

 こんな時だからこそ、「元気な顔で前を向いてやっていかなきゃ」という思いはみんな持っていると思います。そして目標が無いと挫けてしまうので、職員には「6ヶ月で通常ペースに戻そう」とハッパを掛けています。それぐらいの気合でやっていかないと、ダメかなと思っています。

実は今年、3度目のチャレンジで採択された事業(農中森力基金)が始まります。林業遺産に選ばれた「能登のアテ林業」を押し出すことも含めた事業です。

今回の地震に見舞われ、「本当にできるのか?」と周囲から問われましたが、どうしてもこれをやりたい、と思っていました。というのは、この事業の準備にあたり、職員は地元の組合員さんたちと説明会や現場確認等をこまめに行ってきました。「地元の方々と話し合いを重ね、森林を良くするための事業を行う」ことは、当たり前のことですが、森林組合として大切な本来の姿であり、組合員と職員の信頼関係があってこそ良い仕事ができると思っています。

地震があった今こそ、地元の方々と一緒になって「前へ進めるストーリー」をつくり、そして良い結果に結びつけていくことが大切だと思っています。だからこそ、地震の被害が甚大な中ではありますが、森林組合でやらなければならない、と考えていたところ、地元の皆様から「是非やってくれ」というお声をいただき、背中を押してくださったこと、本当にうれしかったです。その後、「必ずやり遂げます」とお答えし審査結果を待っていたところ、今回の採択となりました。

 今回の「農中森力基金」は、能登森林組合が頑張っているところを全国に見てもらえること。そして、職員にとっては「地域と一体で進める」ことで森林組合の姿を再確認する機会になること。そういった意味では、これは私たちにとって大事な仕事になります。

目標は高く、志は強く持っていきたいと思っています。

 

 

令和6年3月26日  

        能登森林組合 

代表理事組合長 亀井順一郎

 

石川県木材利用推進協議会について


石川県木材利用推進協議会は、森林の役割と木材の良さを広く知ってもらい、木材の需要拡大を目的に活動しています。
当サイトは、その活動の一つとして木材の魅力を配信しています。
日本は、先進国の中では有数の森林大国です。
その森林の中核は終戦後に植えられた人工林で、すでに伐期を迎えるまでに成長しています。
石川県内の人工林においても、その多くは利用可能な状態に達しています。
木材を利活用することにより、森林の持つ公益的機能がより発揮され、バランスの取れた循環型社会が構築されるとともに、森林・林業・木材産業の活性化が図られます。
また、住宅分野では消費者の安全や安心に関する関心の高まりから、県産材へのニーズが高まっています。
このことから、協議会では、木材を生産する森林組合から住宅を建築する業界団体までがメンバーとなり、県産材の住宅分野での流通拡大に向けて協議を行っています。

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