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県産材を使うということ。


石川県は森林面積が全体の69%を占める、資源豊かな森林県。樹木は家や街づくりの材料になるだけでなく、
水や空気を浄化し、さまざまな災害から私たちを守っています。ですが木は手入れをしなければ、健康で丈夫には育ちません。
県産材を活用することは木や里山を育て、街や暮らし、産業を整備して、また山に恵みを返す良い循環を生みだします。

『循環する資源と使命』

株式会社山岸林業 代表取締役 山岸 祐一様

「採算性」と「環境保全」を両立できる新しい林業手法として昨今注目されている自伐型林業。石川県内における自伐型林業のフロントランナー、株式会社山岸林業(白山市)。代表の山岸氏にこれまでの取組みと今後の展望を伺った。

自伐型林業とは

私たちが「自伐林家」と呼ばれるようになったのは、ついこの23年のことです。そもそも「自伐型」の林業とは、自分で保有する山の木を自分で伐って材価を得る林業のことを言います。一般的には、山林の持ち主が森林組合に伐採を依頼するケースがほとんどですよね。自伐型の良い点は、一度に全ての木を伐る「皆伐」ではなく、将来を見据えて残したい木を決めて、その成長の支障となる木を間引く「間伐」を長期的に、目を行き届かせて行える点です。「間伐」により残した木の品質は上がり、高く売れるようになるため、将来の山の価値も高まりますし、環境保全の面でも良いと言われています。

私たちは日本三名山のひとつ白山の麓、白峰地区を拠点に活動しています。ここは積雪が2mを超える豪雪地帯であるため、成木になるまでの期間は通常よりも長く、80年から100年ほどかかります。成木に育つまでに2回ほど間伐を行い、胸高直径が30センチから40センチほどになったものを皆伐して木材として出荷します。さらに皆伐した場所には新たに苗木を植えて下刈り・間伐をしながら木を育てていくという、サイクルを回しています。

まだまだ少ない自伐林家

県内に自分の山を持っている人は沢山いますが、自分で伐ろうとする人はいないですね。木に対する思い入れが強すぎて伐れない、という人が多いんです。なんていうかなぁ、皆さん木に対しての思い入れをお持ちで、木を「子孫に引き継ぐべき1つの財産」みたいに捉えていらっしゃいますね。なので自分で伐って資源として循環させていくというスタイルで事業をされている方はまだ少ないです。

ただ私も最初から自伐林家になろうと思って事業を始めたわけではありません。元々、我が家が山を持っていたことが大きかったですね。山岸家に引き継がれていた200町(一町=およそサッカー場1面)の山と、親戚の山400町を併せて管理する必要性が出てきたことが今の自伐型の林業のきっかけでしたね。

 

代々、山を引き継いできた

元々、私の家系が住んできた白峰の土地は、江戸幕府が直轄する天領と呼ばれる地域でした。山岸家は地域の庄屋だったのですが、幕府からの委託を受けて約200年間、土地を預かってきました。私でちょうど15代目です。極端に言うと、私の実家は県庁に警察が加わった様な役割を担っていました。裁判も出来ました。そんな家だったんです。このような経緯があって、地域の山も代々引き継いできたのでしょう。

ただ自分の山の木を自分で伐り出したのは私が最初でした。私の祖父の時代までは、山に掘建て小屋を建てて、そこに住みながら木を伐り出していく「山守り」という方々に山を管理してもらっていた。それから親父の時代になって、森林組合という組織ができて、組合に管理をお願いするようになったんですね。私のような自分で自分の山を伐るというのは、よっぽど変わり者がすることやと思いますよ。笑

木を伐り始めた理由

私は親から「山を継ぎなさい」とは一切言われてきませんでした。しかし「山岸家の後継ぎとして、山も引き継ぐのだろう」という地域の人々からのプレッシャーは子供の頃からありましたね。みんなからそのように思われていて、嫌悪感すら感じてました。

しかし大学卒業後、森林組合に入ったんです。自分の中で「山岸家に生まれたことを活かさないといけない」「我が家が預かってきたものを活かしていかんと、嘘かな」と思ったんですね。全く綺麗事ではありませんよ。始めからすごく儲かる仕事ではないと分かっていたけど、何をするにも「山岸家の後継ぎだから」と見られ続けてきたことに対しての意地がありました。

始めは森林組合職員やキノコ生産を行うなど、林業に携わっていました。私が40歳くらいの時に、同じ地域に住まわれていた方が、自分で重機を買って木を伐り出したんですね。自伐型ではなかったのですが、頼まれて人の山の木を伐ってそれを販売していく、いわゆる「山師」というスタイルです。自分の家にあった山を活かすには何ができるのかと考えていた私はその姿を見て、自分でも木を伐ろうと思ったんです。それから中古のユンボとトラックを買って今の会社を立ち上げました。約20年前のことです

もがいて辿り着いた自伐型林業

「自伐」を始めたのは、つい56年ほど前からなんです。事業を始めて最初の10年くらいは私たちも他の事業者と同じように、山主さんからの依頼を受けて間伐の仕事をしていました。当時は間伐することでそれなりの補助金も貰えましたね。しかし材価も落ちてきて、業界全体として楽ではなくなってきました。

そんな中、戦後に植えられた木が育ち、間伐から「皆伐再造林」の時代になり、自分の山でも伐った後に植林する様になった。現在の自伐型と呼ばれる業態に近づいてきたのです。

最近では「自伐林家」と呼ばれる様になり、少し注目頂きますが、実際には全く楽ではないですよ。自伐だけではまだまだ経営的に成り立たないと思ってます。

私の会社は現在4名体制ですが、誰一人として欠けてはいけないギリギリの体制ですし、技術的にも底上げが必要です。しかし今いるメンバーみんなが、私のようにならなくても良いのかなとは思っています。家業に入ってくれた私の息子は薪の販売に乗り出しており、カフェなどから引き合いを頂いています。これは息子の感性があって生まれた事業ですし、このようにメンバーそれぞれの考えを伸ばして、時代に応じて事業の在り方を考えることが山を引き継いでいく上で大切なのではと思っています。

今後の展望

当社のみんなは、いざこの仕事をやってみて楽な仕事ではないなと感じているでしょうが「自分達の山を維持していかないと」という思いもあるのでしょう。

この仕事を通じて「木を伐らないと、山は近づけない場所になってしまう」ということを、一般の皆さんに知って貰いたいと思っていますね。木を伐っていかないと、大雨などで毎年山崩れが起きるようになってしまう。林業は環境保全の最たる事業です。

白峰には地域おこし協力隊で若い方が毎年来られていて、何人かは定住されているのですが、若い人が集まってくると、地域としても賑わいます。私たちはどんな形であれ、このような方々がより多く集まるような働きかけを白峰から行なっていきたいですね。

インタビュアー : 髙桑 由樹(DaBaDee代表)
写真 : 石川県森林組合連合会

石川県木材利用推進協議会について


石川県木材利用推進協議会は、森林の役割と木材の良さを広く知ってもらい、木材の需要拡大を目的に活動しています。
当サイトは、その活動の一つとして木材の魅力を配信しています。
日本は、先進国の中では有数の森林大国です。
その森林の中核は終戦後に植えられた人工林で、すでに伐期を迎えるまでに成長しています。
石川県内の人工林においても、その多くは利用可能な状態に達しています。
木材を利活用することにより、森林の持つ公益的機能がより発揮され、バランスの取れた循環型社会が構築されるとともに、森林・林業・木材産業の活性化が図られます。
また、住宅分野では消費者の安全や安心に関する関心の高まりから、県産材へのニーズが高まっています。
このことから、協議会では、木材を生産する森林組合から住宅を建築する業界団体までがメンバーとなり、県産材の住宅分野での流通拡大に向けて協議を行っています。

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